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Hotel Story

ホテル・旅館バーのひととき[ホテル日航東京](4話)

ホテル日航東京キャプテンズバー

4.「プレミアムモルツ生ビール、勝沼甲州白ワイン、フュチュール」 ホテル日航東京キャプテンズバー(ホテル日航東京)
Premium Malt’s Draft beer & Katsunuma Koushu white wine & FUTUR by Captain’s Bar at Hotel Nikko Tokyo

 東京にあるホテルや旅館はたくさんあるが、その中でもリピートするようなホテルや旅館は各個人でかなり絞られるだろう。
僕にとってはその中の1つ、「ホテル日航東京」。
 ホテル日航東京、場所はお台場にある。今でこそお台場は国内外問わず観光客のスポットの1つになっているが、バブルがはじけた頃はまだレインボーブリッジすら無い孤立した地域だった。その後、施設がどんどん建ったが、まだその頃は観光客が集まるなどと皆が思っていなかったようだ。首都高速は品川方面から台場に近づくと申し訳程度の出入り口があったがそこを下りると、何も無い、ただ、台場公園の手前にホットドッグの軽トラ屋台がある程度で、暗闇が多かったので、カップルの多いデートスポットだった。ただ、この歴史は浅い話で、もともと台場はペリー来航をきっかけに江戸幕府が海防の一環として建てた人口の埋め立て地であることはあまり知られていないかも知れない。

 さて、そのお台場のホテル日航東京は1996年春に開業した。レインボーブリッジも開通し、新たな東京の夜景スポットとしても注目を浴びたホテルで、東京アーバンリゾートの代表になった。ホテル好きにはたまらない1つが誕生した。夜景が見られるスポットなのだが、このホテルはスカイラウンジなるものは無く、2階フロアがレストランのメインフロアでロビー階。バーはこの階にあるが、夜景は見られない、ゆっくりお酒を楽しむための空間になっている。ようは硬派なホテルバーだ。でも、僕はそれが気に入っている。硬派なバーには硬派なバーテンダーもいる。このバー「キャプテンズバー」はとにかくかっこいい。気取らず行くのもいいが、思い切り紳士気取りでもいい。そんなバーだ。
すっかり紹介ばかりになった。
今日は早めに来たのだが、先客がいるようだ。

「いらっしゃいませ」
僕がカウンターの一番手前に座ると、男性バーテンダーがすぐに声を掛けてくれた。
 カウンターのちょうど中央にイギリス人らしき外国人男性がひとりたばこを吸いながら、白州を飲んでいる。ゆっくりバーを楽しんでいるようだ。なぜすぐにイギリス人かと思ったか、自分でもよくわからないが、クリーム色の気取らないが格好の良いシャツと、ジーンズを合わせたそのイメージとその雰囲気が疑いも無くそんな感じだった。彼はゆっくりたばこを吸いながら、ゆっくりオールドファッションドグラスを口に近づけている。僕はバーテンダーにおしぼりをもらって、生ビールを注文した。ここの生ビールはプレミアムモルツだ。いつもと同じすっきりした味わいを楽しみたい。今日は運動したあとなので、空腹だ。僕はフードメニューももらった。
ここのメニューの特長はなんと言ってもこのフードメニューにある。2階と3階がレストランフロアなのでこのバーには本格的なフードをそのレストランから調達できるようになっているのだ。それが僕が好きな理由でもある。もちろん酒も良いのが揃っている。好きなものを注文したら、ほぼなんでも調達してくれるくらい揃っている。目立たない入口のバーだが、中は一流だ。
新しいメニューなのか、地元の食材を使っているというハンバーガーを僕は頼んだ。
しばらくはカウンターには僕とそのイギリス人、そして、バーテンダーの3人となった。

「生ビールでございます」
バーテンダーがかしこまってそう言った。ちょっとその響きがおかしかった。生ビールが固有名詞では無いからなのかも知れない。バーではあまり慣れない言い方だなと改めて思った。
しばらくビールを飲んで喉を潤していたが、カウンターのイギリス人は2杯目なのか、白州をもう1杯頼んでいる。ロックなので、きついと思うが、平然と飲んでいる姿が良い感じだ。
しばらく僕はバーの雰囲気を楽しんでいた。よく見ると僕の席の横には大きな樽があり、その上にグラスが飾ってある。きれいな彫刻を施したワイングラスで、一目見ていいものだとわかる。
 いいね、この感じ。

喉が渇いていたので、ビールはグラスからすぐに無くなっていく。僕はメニューをみて、次を選ぶ。ハンバーガーは和牛と書いてあったので、それに合うものを頼みたい。ワインがあったが、そこには欲しいと思うワインが無かった。僕はチェックイン時にルームサービスのメニューを見ていて、そこに甲州種のワインがあることを知っていた。メニューリストに無いが頼んでみるかと思い、オーダーした。
「甲州種の白ワインはありますか」

バーテンダーはとてもいい笑顔で、
「ホテル内から取り寄せてきます」
と言った。
「ありがとう」
僕はそう言って、甲州種の白ワインとハンバーガーの組合せを考えた。良いね、これも。
すでに最後のカクテルもこの時点で決めていた。でも、名前はわからない。なぜって、このバーテンダーのオリジナルカクテルにしようと思ったからだ。

バーテンダーがイギリス人に何かフードはいらないかと英語で声を掛けていた。そういえば、彼はナッツなどのつまみも無しで飲んでいた。
「Thank you, but I don’t have dinner.」
彼はそれだけ言って断った。
つまりこれから夕食だから今は要らないと言う意味だ。京都人のような断り方をする外国人もいるものだなと僕は思って、残った生ビールを飲み干した。
そして、どこから調達してきたのか、他のバーテンダーがまだ開いていない甲州種の白ワインのボトルを持ってきた。さっそく抜栓、グラスに注いでくれる。
きれいな色だ少し金色が入ったような透明な白ワイン。山梨の甲州種のぶどうを使った辛口のワインは日本のどのホテルにも置いておくべきでは無いかと僕は思う。日本ではかなりの食事に合う数少ないワインだと思っているからだ。
 一口飲んだところで、バーテンダーがミックスナッツを持ってきた。

「ハンバーガーがまだ出来ないので、これはサービスです」
そう言って、さりげなくカウンターに置いてくれる。素直にこうしたサービスは嬉しい。
「すみません」
僕はそう言って遠慮無くもらうことにした。甲州種とナッツもなかなか美味しいものだ。

さて、イギリス人は勘定をしている。ほどなくして、彼は背筋をピンと伸ばしながら、カウンターをあとにした。彼は今日どんなディナーなんだろうと思いながら、後ろ姿をみていた。バーにはまだ早い時間なのに、カウンターにはもう1人の男性と、後ろのテーブル席には若いカップル、そして、スペイン語を話す外国人のグループが座っている。
このバーにしてはにぎやかだ。
そして、僕の横には女性が1人座った。

その女性は僕より少し上くらいだろうか、いやもしかしたら下かも知れない、スレンダーな体に卵色に近いクリーム色のワンピースをまとい、青い宝石のネックレスをしていた。指輪は無かった。それほど着飾っていないのに、とてもファッショナブルに見えるところが不思議だ。バーにも何回か来ているらしく、僕の注文を取ったバーテンダーと親しそうに話し、彼女はウイスキーのロックを頼んだ。僕は久しぶりに女性がバーで最初の一杯にウイスキーを頼んでいるところをみた。その動作は嫌みも無く、どちらかというと自然で、慣れているけれど、馴れ合いでは無く、一定の距離感があった。
そんなことを考えていると、注文したハンバーガーが届いたようだ。
僕がちらっと見ているのに気がついたのか、彼女は僕に声を掛けた。
「美味しそうですね」
バーテンダーが運んできたハンバーガーを見てそう言った。
「そうですね」
僕は不意を突かれた感じで、思わずセンスの無い返事をしてしまった。
彼女は少し笑って、また自分のグラスに手を付けた。
「これは東京都の牛肉で作ったハンバーグで、とても美味しいですよ」
バーテンダーがそう説明してくれた。夕食にするにも十分な量で、肉厚のハンバーグはそのままでも美味しそうだった。実際、バンズも肉も申し分なかった。

僕はハンバーガーを食べながらも、横の女性が気になっていた。いやウイスキーをロックで飲む女性が気になっていた。
彼女は僕が2口くらい食べたあとには、ロックグラスを飲み干していた。
良い飲みっぷりだ。
バーテンダーもすかさず次のオーダーを聞きに来る。
「いかがいたしましょうか」
グラスにちらっと目を移しながら、バーテンダーは彼女にそう言った。
「じゃあ、モスコミュールをもらおうかしら」
モスコミュールは女性に人気だ。若い女性でも知っているくらいにポピュラーになったカクテル。でも、何度も飲んだであろう、女性がオーダーすると、カラオケや居酒屋でのモスコミュールとは全く別物を頼んでいるように思える。ウォッカにフレッシュライムジュース、ジンジャーエールかジンジャービアを入れるだけのシンプルなカクテルだが、これはシンプルなので、バーによってそのレシピが結構変わる。確か、ここのモスコミュールはハードタイプのジンジャーエールを使い、ウォッカが多めでアルコール度数が高い。
たぶん彼女も前に飲んだのであろう、メニューを見ずに頼んでいた。

お腹が減っていたのか、モスコミュールが出来上がる前に、僕はハンバーガーを食べ終え、白ワインも飲んでしまった。すでに決めていたオーダーをお願いする。ホールは少し忙しくなってきたらしい。
少し手が空くのを待っていたが、忙しさは増すようなので、合間をみて僕は声を掛けた。

「オリジナルのカクテルはありますか」
「はい、私のオリジナルでしたら、このフュチュールですが、お客様にはアルコールが少ないかも知れません」
彼は短時間でビールとワインを飲んだ僕にそういった。

「大丈夫ですよ。オリジナルが好きなので。フュチュールを・・・」
「ありがとうございます」
彼は笑顔を向けてそう言った。
同時にモスコミュールも出来上がった。

「モスコミュールです」
女性は嬉しそうに、バーテンダーがスライドさせるグラスを見ていた。
僕はカクテルに使うリキュール類を眺めていた。彼はその中の3本を取り出し、僕の前に置いた。
変わったボトルだった。手際よく彼はシェイカーに材料を入れ、ほどなくシェイクした。

フュチュール。
彼のオリジナルだ。

甘めだったが食後のデザートにはちょうどいい。
すっきりした甘さで、口の中もフレッシュな感じになった。これは謙遜。確かにアルコール度数は低いが、美味しい。
すっかり満足だった。
また左を見ると女性はちょうど最後の一口を飲むところだった。

いい。
かっこいい女性だ。
よく見ると彼女のネックレスの青い宝石は僕の好きなパライバだった。
そして彼女は飲んでまもなく、バーテンダーに勘定を頼み、僕がまだショートのフュチュールを楽しんでいる間に、さっと帰って行った。
帰り際に僕の横を通ったのだが、彼女からは何の匂いもせず、ただ、ふわっとした風が僕の体を通り過ぎた。

お酒が本当に好きなんだな。
そんなことを思いながら、僕はフュチュールの最後の一口を飲んだ。

 次はどこのホテルのバーにお邪魔しようか。
 それともどこの旅館のバーにしようか。

*ホテルのカクテルとビール
・サントリープレミアムモルツ生ビール
・シャトーメルシャン勝沼甲州白ワイン
・フュチュール[アリーゼ(コニャックを使用したパッションフルーツのリキュール)、ピーチリキュール、パッションフルーツの入ったネクターをミックス、パッションフルーツの皮を用いた飾りを添える]

**文章は全て創作であり、登場人物は実在の人物とは関係ありません。

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