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Hotel Story

ホテル・旅館バーのひととき[ロイヤルパークホテルザ汐留](9話)

ロイヤルパークホテルザ汐留ザ・バー

9.「コスモポリタン、ななしのごんべえ」 ロイヤルパークホテルザ汐留 THE BAR(ロイヤルパークホテルザ汐留)
Sapporo EBISU Draft Beer & Orion Bottled Beer by Tealounge at Hotel Monterey Okinawa Spa & Resort

 高層ホテルで夜景のきれいなホテルはたくさんあるが、ロイヤルパークホテルザ汐留もその中の1つだ。
このホテルは東京汐留にあるホテルなのだが、高層ビルの24階にフロントがあり、その階にバーもある。24階は2階分が吹き抜けでちょうど、中央に階段があり、その階段は誰でも上っていくことができる。
階段の途中からバーを眺めるとなかなか見応えがある。
バーカウンターの向こうには外の景色が見える。
ちょうど、下には浜離宮が見え、その奥に隅田川が見える。フロント階にあるので、どうしてもバーは目に入る。それが結構いけてるのだから、入りたくなってしまう。そんなバーだった。

 チェックインタイムとは少し前に来てしまったので、ホテルのチェックインで、フロントの女性スタッフは少し長く目の前の端末と格闘していた。時間がかかっているのはおそらく部屋のやりくりをしてくれているからだ。
結構な時間を待っていたのだが、僕は待っているということをできる限り彼女に伝えないように、ロビーの周りを見たり、フロントデスクに置いてあるパンフレットを読んでみたり、そんなことをしてその時間を過ごしていた。
端末を使い始めて3分は経っただろうか、彼女は僕の顔をみて微笑し、部屋のカードキーをくれた。
通常の部屋よりも1つアップグレードしてくれたようだ。満室だと聞いていたので、やりくりはちょっと苦労したに違いない。でも、少しでも客に良いサービスを提供したいという思いが伝わり、僕は嬉しくなった。

 ロビー階のバーはその名も「THE BAR」と言う。僕はオーセンティックバーが好きだ。でも、いかにも都会のアーバンホテルらしい佇まいのホテルバー、それもいい。
 僕は部屋に入って荷物を預け、夜までの時間を階下にあるスパで過ごすことにした。たまにはゆっくりしよう。そんな思いと、バーに行くにはまだ時間が早いからだった。
ところが、その考えが甘かった。
スパが思ったよりも心地よく、時間を忘れて過ごしてしまったので、出るころにはいつもの時間よりもかなり時間が経過してしまっていた。
結果、バーにはいつもの時間よりも随分遅い、皆が集まり始める頃の時間帯になってしまった。とはいえ、まだバータイムには時間が早く、カウンター席は空いていた。

 オープンな形のバーなので、どこでスタッフに声を掛けていいかわからないまま、僕はカウンターに到着し、首から提げていたいつものデジカメをカウンターに置いた。
「いらっしゃいませ」

早口のバーテンダーは男性で、僕は右から2番目の席に座った。さっとメニューを2種類取り出し、僕の前に置いてくれる。
まだ少ないとは言え、バー内は半分以上は席が埋まっている。
時間的にはそんなものかもしれない。
僕の後ろのテーブル席には両親とその息子夫婦らしき家族連れ4人、外国人と日本人のビジネス客らしい2人、壮年の夫婦らしきカップル、そして、カウンター席には40代くらいのカップルが座っていた。
それぞれ、似たような客がいないのがおもしろい。
カップルは手前に彼女が、奥に彼が座り、彼女の右手には赤ワインの入ったグラスが、そして、彼の左手にも同じものが置いてある。そして魚のメインディッシュとスープをオーダーらしく、2人で仲良く皿を真ん中に置いて食べていた。カウンターでこういったオーダーはやはりお洒落に見える。2人は慣れた感じで食事を摂っていた。
バーテンダーはグラスの準備をしていた。磨き込まれたグラスはバックボードの黄色い照明に翳し、汚れが無いかを確かめては一つ一つ丁寧にグラスストックにしまっていく。
 僕はいつのものようにメニューを一つ一つ全て見て、ドリンクをどれにしようかと探していた。遅めになってしまったので、腹も減っている。そういえば僕はここのフードメニューも確認せずに入ってきてしまった。
でも、メニューにはしっかり、フードメニューもあった。最近のホテルのバーはフードメニューの充実が素晴らしい。
バーで食事もしっかりできるところが、僕がホテルのバーが好きな一番の理由でもある。このホテルも同じく、フードメニューを見ると、フレンチのフルコースがそのままカウンターで食せるくらいに充実している。
難点をあげるとしたら、ホテルのバーでフードメニューをオーダーすると、どうしても、バー内では作れないので時間がかかることだ。食べるなら早めにオーダーすることが必要になる。「先にオーダーを決めてしまおう」そう思って、僕はフードメニューからサラダ、ミネストローネ、ガーリックトーストを選んだ。
「すみません、サラダとミネストローネ、ガーリックトーストを下さい。ドレッシングは和風で」
「それからコスモポリタンを」
「かしこまりました」

バーテンダーは表情を変えずにオーダーを聞いていた。バー内は結構騒がしい。
カウンターでは3つ先のカップルの会話はほとんど聞きとれないくらいだ。
それでも、バーテンダーは1回で聴き取っていた。
そういえば、さっき僕の右に来たスタッフがカウンター無いのバーテンダーにオーダーしていたが、僕はほとんど聞こえなかったのに、彼は何も言わず、聞き返さず、黙々とドリンクを作っていた。
さすがだ。
カクテルパーティー効果もあるだろうが、オーダー関係の言葉は聴き逃さないのだろう。

 1人でバーに来ると、オーダーしたあとは手持ちぶさたになることが多い。
最近ではバーでカウンターに座っているのに電子端末を黙々といじっている客も多いがバーのカウンターでは無粋だ。ならどうするか、バーの雰囲気を味わったり、バーテンダーの仕事をのんびり眺めてみたり、お酒のボトルを眺めてみたり、何も考えずにそんなことをしているのがいい。そういった過ごし方をすることで、結構仕事のアイデアなどが出て来るものなのだ。
 このバーは夜景がとても綺麗に見える。僕の席の横には、夜になり真っ暗になった浜離宮と、奥には隅田川が見えていた。みると、ちょうど屋形船が川の上流に向かって進んでいるところだった。
たぶん、屋形船は浅草辺りまで行くのだろう。この場所からだと浅草まで7〜8キロメートルくらいはあるだろう。そこまでのんびり川の夜景を見ながら行けるとはなんとも贅沢だ。
 後ろの客はまだ変わらず同じだった。会話は全く聞こえないので、何を話しているかはわからないが、それぞれの表情でどんな感じなのかは伝わってくる。
ただ、カウンターから後ろを振り向くのはかなり目立つので、あまり長い時間そうするわけにもいかなかった。そんなことを思っているうちに、カウンターの左で生演奏の準備が静かに始まっていた。時間は21時少し前、21時から生演奏を始めるのだろう。
これはいい。

 生演奏があることは知らなかったので、思わぬプレゼントだ。トリオだが、珍しい編成で、ジャズギター、ベース、サックスだった。演奏は、21時ぴったりに始まった。そして、バーテンダーがコスモポリタンを持ってきてくれた。いいタイミングだ。
「いつも生演奏はしているんですか?」
僕がバーテンダーに聞くと、彼はすぐさま、
「いえ、木曜日と金曜日です。ギターとベースはだいたい固定なのですが、もう1人はボーカルだったり、キーボードだったり変わることもあります」

なるほど、サックスは変わることもあるのだなと思い、演奏に聴き入っていた。
バーでジャズの生演奏はいい。
1曲目は曲名はわからないが、スローでメロウな曲だった。
少しバーの中を見ると、彼らの演奏を見ながら聴いている客人はいなかった。僕だけのようだ。
どうやら、今回の演奏は僕のためにしてくれているようだと思うと、コスモポリタンの味も一層美味しくなった気がした。
コスモポリタンは日本でも一時期有名になったアメリカドラマ「Sex and The City」の中でキャリーがよく飲むカクテルとして知名度が上がったように思うが、そのカクテルの由来については、諸説曖昧だ。コスモポリタンは日本語では「世界を駆け巡る国際人」などと訳されるが、それもあっているのかなと思う。
ただ、僕はこのカクテルを1人バーカウンターで飲む女性を見つけたら、きっと少しひいてしまうかもしれない・・・そんなカクテルだ。
 演奏は4曲目くらいになっていた。ようやく最初にオーダーしたフード類が僕の手元に届いた。サラダにスープにガーリックトースト、ヘルシーなものを頼んだものだ。ガーリックトーストはちょっと変わっていて、大きなグラスのようなものに長いフランスパンを中央で半分に切り、それを縦切りに8等分くらいにして作った形で、見た目はかなり目立つ。スティック状になっているので、意外と食べやすい感じだ。
サラダもシンプルで、スープはミネストローネだ。
僕は食事をしながら、演奏を聴いていたが、ふと夜景側を見ると、窓の上には高速道路が浮かんでいるのがわかった。ちょうど鏡面になり、反対を向いているが、走る車が逆さを向いて走っているのが見えてなかなかおもしろい。
横に連れでも居たらその発見を知らせているところだ。
演奏は5曲目に入った。どうやら聞いたことのあるメロディが流れてきた。
これは曲名も知っている。「Somewhere Over The Rainbow」(虹の彼方に)だ。僕の好きな曲だからすぐにわかった。最近ではディズニーの「オズ」の方が有名になってしまったと思うが、ライマン・フランク・ボームの作品「オズの魔法使い」は1939年に映画化されて、その中で主人公のドロシー(ジュディ・ガーランド)が歌っているものだ。「オズ」はその「オズの魔法使い」の続編の映画化だったと思う。
 すっかり聴きながら食事をしていたが、ほどなくその曲も演奏が終わった。コスモポリタンもそれと共に飲み干してしまい、僕はバーテンダーに声を掛けた。
「オリジナルのカクテルはありますか?」
「特にないんですよ。何か好みを言って頂ければお作りします」

ホテルのオリジナルが無いのも潔いのだが、普段はたいてい、ホテルにはそこのオリジナルがあるので、その返答にどうしたものかと思ったが、ついつい、
「じゃあ、何かおすすめを」
と流れのままに言ってしまった。
バーテンダーはさっとカウンター内の冷蔵庫から材料を出し、作り始めた。ちょうど、サラダも食べ終わり、スープも半分くらい残っているが、おすすめを出してくれる頃にはガーリックトーストだけになっているだろう。

いつの間にか演奏は終了していた。トリオは何事も無かったかのように、さっとカウンターの横の袖から戻っていった。あくまでさりげなく生演奏という感じを演出しているのかも知れない。
 バーテンダーは手際よく、旬のいちごとドルフィーのフランボワーズ、MONINのシロップを取り出し、ミキサーにかけ、その中にシャンパンマムを少し注いだ。シャンパンのカクテルとは高級なカクテルだ。バーテンダーは商売気たっぷりだった。
「どうぞ」

彼は空のグラスを下げ、代わりにミキサーで出来上がったばかりのカクテルをフルート型シャンパングラスに注いで置いてくれた。
「このカクテル、何か名前がありますか?」
僕が聞くと、
「特にありません、ななしのごんべえです」
と彼は言った。

生真面目そうな彼の口から「ななしのごんべえ」が出てくるとは思わなかったので、僕はちょっと笑って、
「ななしのごんべえですか・・・」
と復唱していた。

そのカクテルは美味だった。シャンパンを使ったカクテルは旬の生のフルーツとシャンパンを合わせただけのものが多い。だから、自然に贅沢なものになってしまいがちだ。僕はシャンパンはそれを作った人たちに敬意を表し、通常の席ならできる限り、シャンパンはそのまま飲みたいと思っている。
でも、一流のバーテンダーが一流のカクテルをシャンパンで作るなら、それはいい。しかし当然美味しくないといけない。このななしのごんべえは甘さもシャンパンといちごの風味も絶妙で、プラスしたリキュールとシロップのほどよい加減がいけている。これならマム(シャンパン)も納得するだろうと思った。
 僕はそのカクテルを味わいながら、最後のスープを飲み干した。
ちょうどその頃だった。カウンター席は6席、カップルは一番左の2席だったが、僕の横には男性がひとり、席に着いた。
後ろをみるといつの間にかテーブル席は満席だった。道理でバーテンダーも忙しくなっているわけだ。僕のオーダーを完了後も、忙しくドリンクを作っている。

もう22時前だった。
バーが忙しくなってくる時間だ。隣の男性は生ビールを注文していた。生ビールは早く出て来る。バーテンダーも楽だ。でも、彼は次から次にドリンクを1人で作ってる。これではバーテンダーとちょっとした会話もできそうにない。そう思った頃だった。生演奏がまた始まる時間になったようだ。
カウンターのカップルはそれを見計らったかのように、トリオの生演奏の前にチェックをして帰っていった。会話はわからなかったが、とても雰囲気が良く、仲も良いカップルだった。こういったカップルが横にいると、周りの雰囲気も良くなる。僕も演奏が始まる前に出ようと、ななしのごんべえの最後の一口を飲み干した。
最後まで美味しいカクテルだった。

 バーテンダーはさっきよりも増して、忙しい時間帯になったようだ。でも、僕がカクテルを飲み終わったことには気付いてくれたようで、
「お代わりいかがですか?」
と聞かれた。

「チェックお願いします」
彼は、にこっと笑って返事をすると、スタッフにサインを送り、また自分の仕事に戻った。

僕はレシートをもらうと、部屋づけにして欲しいと言って、サインをしてバーをあとにした。
心の中で、忙しいバーテンダーに「美味しかったよ」と言い残して。

 次はどこのホテルのバーにお邪魔しようか。
 それともどこの旅館のバーにしようか。

*ホテルのカクテル
・コスモポリタン[ウォッカ30ml、コアントロー15ml、クランベリージュース15ml、フレッシュライムジュース1tsp]
・ななしのごんべえ(オリジナルカクテル)[シャンパン(マム)適量、フランボワーズドルフィ適量、MONINフレーバーシロップ適量、イチゴ適量]

**文章は全て創作であり、登場人物は実在の人物とは関係ありません。

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