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Hotel Story

ホテル・旅館バーのひととき[ホテルモントレ沖縄スパ&リゾート](10話)

ホテルモントレ沖縄スパ&リゾートのティーラウンジ

10.「サッポロエビス生ビール、オリオン小瓶」 ホテルモントレ沖縄スパ&リゾート ティーラウンジ(ホテルモントレ沖縄スパ&リゾート)
Sapporo EBISU Draft Beer & Orion Bottled Beer by Tealounge at Hotel Monterey Okinawa Spa & Resort

 久しぶりに沖縄に来た。
もう2年になるだろう。以前は毎月のように通っていた時期もあったが、今ではすっかりご無沙汰になっていた。そんなご無沙汰でなぜ来ることになったかというと、新しいホテルが沖縄ではラッシュのように建設されているからだ。
 世間では外国人観光客を増やそうというキャンペーンが目白押しだが、実際それほど高い目標を掲げて達成してしまったらホテルや旅館は空きがあるのか?などと心配してしまう。
旅館などは経済低迷の折、毎年数が少なくなっていると聞く。ただ、沖縄だけは元気なようで、数年前からホテルの建設ラッシュは気になっていたのだ。
 そんなこともあって思い切って、新しいホテルに宿泊することにした。

 「モントレ」と聞くと僕は学生の頃にヨーロッパ風の部屋の内装で憧れを持ったモントレ神戸を思い出す。
他にも都市部に進出しているイメージがあったのだが、今回はリゾート地沖縄のモントレだ。
 ホテルは大型で施設も一級、温泉、プールにレストランと日本人が好きなものが一式揃っている。
沖縄の温泉というと聞き慣れないのだが、これもここ数年、温泉付きのホテルがかなりオープンしている。温泉好きの僕としては嬉しい限りだ。
ただ、残念なことにこのホテルにはバーと呼ばれるものが無い。どうやらティーラウンジでカクテルなどは飲めるのだが、一流ホテル特有の入りにくい、格式張ったバーは無い。
まあリゾート地だから仕方ないのかも知れないがせめて「バー」は欲しいというのはわがままなのかも知れない。

 僕は夕暮れの中、ホテルに到着した。ティーラウンジでのバータイムは18時からだったので、僕は部屋で少し休息してから行くことにした。
 全室オーシャンビューのホテルの部屋からの夕景はとてもきれいで、ホテル前の海から水平線までと、水平線から空の2つのグラデーションが沖縄らしい夕景を描いていた。ちょっとした気持ちの良い休憩時間になった。

 僕は18時になったのを確認して部屋を出た。ティーラウンジは3階にあった。3階はロビー階なのだが、このホテルは海に沿って長く建物が配置されているので、ちょうどオーシャンフロントの大きなロビーの窓からは夕焼けの橙色の光が差し込み、ロビー内を照らしていたので、ロビーの中でも夕陽を楽しむことができた。
目当てのティーラウンジはこの時間を境にちょうどアルコールメニューの充実するようだ。
「いらっしゃいませ」
 まだティータイムの客がいる中、僕がはティーラウンジに入った。中を見るとほとんどがテーブル席なのだが、小さなカウンター席もあった。僕はスタッフに聞いてみた。
「カウンター席、いいですか?」
「もちろん。どうぞ」
大きな海が見える窓とはちょうど垂直にカウンターの中央の席に座った。
カップルがあと2組座ると、いっぱいになるくらいのカウンターだった。
うしろを振り返ると、テーブル席の客はもう部屋に戻るようで、そうなるとティーラウンジには僕ひとりになる。もう夕陽も沈んだので、十分このラウンジの景色も堪能したのだろう。
 僕はメニューをみて、ちょっとどうしようかと思いながらもエビスの生ビールを頼んだ。
実はここに入る前に気になったショーケースがあった。
ここはティーラウンジだから、当然ケーキ類もある。
そのケーキが何種類も小さなガラスのショーケースに入れられていて、それがとてもきれいなケーキ達だったのだ。
赤やピンクなどの装飾をした美味しそうなケーキが10種類弱は並んでいただろうか、みなパティシエがしっかり作ったような、なかなか独創的なものばかりだった。それも食べようかと思ったので、飲み物の選択を少し迷ったのだ。
 でも、まずはやっぱり生ビール、そんな感じだった。
席からはケース内を見ることができないが、あとでどれかを頼んでみよう。
テーブル席の客は僕が来ると同時にティータイムが終わったかのように、みな外に出て行ったが、ふとテーブル席をみると、まだ4歳か5歳くらいの小さな男の子がひとり残っていた。
顔は赤く日焼けして、髪はばさばさ、なかなかワイルドな子供だった。
さっきの大人達と一緒ではなかったのか、1人というのも気になったが、あとで親が迎えに来るのだろう、バーテンダーも特に気にしていないようだったので、僕はカウンター内で、ちょうどグラスにビールを注いでいるところをみていた。
 ここのバーテンダーは小柄な女性だった。
凛としている感じなのだが、頬が少し緩んだときの笑みが少女のようだ。
でも、バーテンダーらしく、所作はきびきびしている。

「どうぞ」

 僕の前にコースター、そしてグラスが置かれた。
まだ外の夕陽がグラスにあたり、黄色というよりも赤みがかったビールといった感じだった。
一口飲むといつものエビスがのどを通っていく。
冷えた生ビールはやはり美味しい。
このエビスだとケーキ類も合いそうだ。
 このラウンジ内は新しく、きれいで、モノトーンの内装は席に座っていても落ち着く感じだった。
海を見渡す大きな窓ガラスはその中でも特長的だ。
テーブル席が多いのでカフェのように見えるが、カウンターもある。
名前がティーラウンジだから、どうも、お酒が充実している感じでは無いのだが、実はメニューにはバーのドリンク類はかなり充実している。
オリジナルカクテルもある。
さっきの子供はまだテーブル席にいた。
特に飲み物を頼んでいる感じでは無かったようで、テーブルには何も置かれておらず、手の中に何か持っているようで、それをテーブルにひろげて遊んでいるようだった。
4、5歳というとそんな感じだったかな。いつまでも同じことをしていてもなかなか飽きない。それでも楽しんでいるのだ。
 僕は美味しいと思いながらビールを少しずつ飲んでいたつもりだったが、サンセットをみとれていたのか、結構ペースが速くなっていたようだ。もうグラスはほとんど無くなっていた。

 「もう1杯お作りしましょうか」
ずっと目の前にいて、バーの準備などをしていたバーテンダーは僕のグラスを見て言った。
僕は少し考えて、
「いえ、まだ大丈夫です。メニューもらえますか?」
ふいをつかれた形で尋ねられたので、まったく次を考えていなかったのだが、もう一度ゆっくりメニューをみることにした。
ビールにケーキは合うと思うのだが、さっきのショーケースの中のケーキだと、やはり地元のビールが良いと思った。
みるとメニューにオリオンビールがあった。
しかも瓶だ。
オリオンビールは沖縄県のソウルビールといってもいいだろう。
レストランでも居酒屋でも、ホテルでも沖縄でビールと言ったらオリオン。
ただ、瓶のオリオンビールはあまりみない。
だいたいが生ビールだからだ。
その小瓶があるというので、それにすることにした。
そして、もう一つ、ショーケースの綺麗なケーキの1つ、印象深かった一番右にあったサクラロールをチョイスした。
ビールにケーキ?などとよく言われるが、無類のアルコール好きの僕は苦みのあるビールはケーキにも合うと思ってる。
甘いものでも色々合うアルコールは必ずあると思う。
とはいえ、そんなかっこのいいことを言っても、基本的にアルコールを飲みたいだけ、というのが本当のところだということは、あまり周りには言えない。

「オリオンの小瓶とサクラロールをお願いします」
「はい、かしこまりました」
にこっとして、バーテンダーの女性は準備に取りかかった。
サクラロールは表のショーケースの中だ。
まずは小瓶がカウンターテーブルに置かれた。
「それから、お水ももらえますか?」
オリオンの小瓶と、グラスが2つ、目の前に準備され、その1つにビールが注がれた。
変わらず手際が良い。
そこまで作業を終えると、彼女はカウンターから出ていった。
ラウンジ外でオーダーが入ったらしい。

 ふと気付くとさっきテーブルに座っていた男の子が僕のカウンター席の横に来ていた。
何やら手に持ったものを大事そうにして、隣の席に手を置いて僕を見ている。
さっきまでテーブルにいたと思っていたので、僕はちょっとびっくりしたが、その子の野生児のような自然な笑顔が和ませてくれた。
彼はカウンター席の椅子の上に、手に持っていたものをいくつか出して置いた。
「これあげる」
周りに聞こえたらいけないという感じで、とても小さな声で小さな手をひろげながら男の子は言ったような気がした。
椅子を見ると、緑色の木の実のようなものが3つ置いてある。ナッツの1種かと思ったが、見たことが無いものだった。
「ありがとう」
僕が礼を言うと、男の子は嬉しそうに笑って、そのままさっきいたテーブルに戻っていった。
僕は隣の椅子にあったその木の実をテーブルの上に置いた。
食べられるのかな?そんなことを思いながら、木の実を見ていたが、たぶん、沖縄の山には落ちているのだろう。
子供の頃には自分でも、山に行くとどんぐりなどを持って帰ってはあまりの多さに母親を困らせたものだ。
木の実は深い緑色で丸かった。
きっと男の子が拾って、宝物っぽく持っていたものなのだろう。
ラウンジで1人の客になった僕におすそわけをしてくれたのだと思った。

 バーテンダーがカウンターに戻ってくると、サクラロールが手元にあった。
サクラロールは平面の皿に置き直され、僕のカウンターの前に出された。
ラズベリーとブルーベリーサクラの木の枝をモチーフにした砂糖菓子が飾ってある小さなロールケーキ。
ビールとサクラロールが並んだ。淡い金色と淡いピンクのコントラストはそれだけで美味しいと思わせるに十分な演出だった。
一口、サクラロールを頬張った。
美味しい。優しい甘さとほのかな桜の香り付けがしてあった。
桜茶を飲んだときのようなすがすがしい、美味しさだった。そして、オリオンビールを一口、これも美味しい。やっぱりこの組合せはよかった。
 バーテンダーはそんな僕の様子をみながら、嬉しそうにしていた。
そして、僕の前のサクラロールの横にある木の実に気付いた。
「変わった木の実ですね」
「ええ、さっきその男の子がくれたんですよ」
僕はそう言って、後ろのテーブルの男の子を見ようとした。
するとその男の子はもういなかった。
いつのまにここを出たのだろう。
男の子が座ったのは確認したと思ったが、1分も経っていないのに姿がなくなってしまった。
バーテンダーもテーブルを見ていたが、そこには誰もいなかった。
「男の子、ですか?」
「はい、さっきまでその真ん中のテーブルに座ってた男の子がいたでしょ?その子がここまで来てくれたんですよ」
僕は後ろを見ながら指さして言った。
「最初のビールを飲まれる頃からテーブル席には誰もいらっしゃらなかったですよ」
「えっ?」
僕はそんなことはないと、ラウンジの外も見てみたが、男の子はいない。
「いや、さっきその子がくれたんですよ、この木の実を」

 僕は何が起こったのだろうと、時間経過を思い返してみた。
でも、何も思いつかない。
もしかしてバーテンダーがかついでいるのか?と思った。
バーテンダーはしばらく黙っていたが、やがて、僕の顔をみて言った。
「お客様のおっしゃるとおりでしょう。お客様に会いに来た男の子だったのですよ、きっと」
たぶん、本当に彼女には男の子は見えていなかったのだろう。
びっくりするでもなく彼女はそう言った。

 なるほど、こんなことも沖縄だからあるのかもしれない。
そんなことを思って、僕はある場所のことを思い出した。

 それは僕にとって一番といって良いくらい沖縄で印象深い場所だ。
本島の北部、やんばると呼ばれている地域にあるぶながや窯だ。
もう10年以上前になると思う。
まだ初めて沖縄本島に来た頃に、いつものようにたくさん下調べをして、見つけた陶器を焼く窯だった。
初めて行くには空港からも遠く、ホテルもあまり無いので、わざわざ行く人はかなり少ない。
今もやんばるんまで足を運ぶ人は少ないだろう。
でも、なぜかその窯が気になって、北部のホテルに予約を取り、見に行ったのだ。
 そのときはその窯の名前である「ぶながや」の由来も本に書いてあるくらいしか知らずに行ったのだが、真夏の日にその窯の作品が置いてある場所は少しひんやりとして、とにかく静かな地域で、外には誰もいないので、1人だと夏の昼間でも少し怖くなるような感じさえするところだった。
一番奥には大きな山のような窯があり、その前にはあまり数が多くないが陶器が並んでいた。
しかし、その窯のなんといっても一番の陶器は湯飲みでも皿でもない、「ぶながや」だった。
当時、ぶながやは木の精で、今でこそみんなキジムナーというと知っているのだが、キジムナーの呼び名は北部では「ぶながや」と呼ぶそうで、その「ぶながや」を陶器でつくり、人形のように形取ったものがあった。
もちろん売り物だが、目は緑で、体は赤、髪はその土地、喜如嘉(きじょか)の芭蕉布(ばしょうふ)で作られている。
子供が見たら怖いと思う感じだ。
それだけ迫力がある。
聞くと年にいくつも作れないようなものだという。
確かに、複雑な形をしたその陶器は焼くのもとても難しく、満足のいくものとなると次回いつできるかわからないのだろう。
僕はなかなかその場所から離れられず、ずっと眺めていたのだが、そのぶながや窯が、さっきの男の子から鮮明に思い出された。

 もしかしたら、さっきの男の子は・・・
ちょっと狐につままれたような不思議な出来事だった。

僕の手にはテーブルにあったあの緑の木の実が3つ、ちゃんと残っていた。
そして、さっき男の子がいたテーブルをよく見ると、木の実が2つ置いてあった。
まるで男の子がちゃんとここに居たよ、と僕に示してくれているように。

 次はどこのホテルのバーにお邪魔しようか。
 それともどこの旅館のバーにしようか。

*ホテルのビールとカクテル
・サッポロエビス生ビール
・オリオン小瓶

**文章は全て創作であり、登場人物は実在の人物とは関係ありません。

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